なんでパンを焼いているのか

〈東京④〉薪窯のパン屋、やる?

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せっせと記録していたパン屋紀行




東京に来て1年、
お弁当と仕事のほかに夢中になっていたことが
「パン屋巡り」。


現場仕事は、基本的に週6日勤務で、お休みは日曜日。

社内の人間ということで、いつの間にか
シェアハウスの管理係に任命されていて(家賃少し安くなった)

休みの日曜日は、シェアハウスの掃除をしなくてはいけない。
11人が暮らす家の掃除はなかなか大変で、
またお風呂が猫足だったり、シャラシャラした照明ばかりで、
もはや掃除が仕事みたいな状況でした。
 
なのでわたしの休みは、まあ半日くらいなもので、
せっかく東京にいるのだから、
この時間を有効に使おうと、
ハマったのがパン屋巡り。
世の中は空前のパン屋ブームで、
どの雑誌もパン屋特集を組み、どこをみてもパンパンパン。

東京に住んでいると雑誌に載っているお店がすぐに行ける距離にあるわけで、
お店を訪れ、雑誌と実物の答え合わせをするような感覚が面白くて
しかもパン屋って、お店に入るだけでなんとも幸せな気分になるし、
毎週日曜日は東京中のパン屋をめぐり、
パン屋の場所で、東京の地図を覚えていきました。

 

そんな入社1年目の冬の年末、
会社の忘年会のために、バゲットを買いに
社長とパン屋に行ったときのこと。

社長にパン屋への愛を語り、
何気なく「私パン屋したいんですよね」とつぶやくと、
「お茶いる?」くらいの、ものすごくフラットな調子で

「パン屋、やる?」と社長。
何やら社長はずっと前から薪窯のパン屋をつくりたかったらしいのです。 


この会社に働くことになったときも、

こうしてパン屋をするか聞かれたときも、
他愛もない世間話のように人の人生の転機をヒョイヒョイと
つくってしまう社長はやっぱり本当に末恐ろしい。

わたしは一晩考えた。

今の施工の仕事は楽しい。
でも、ものづくりの職人仕事はしっくりはきていなかった。

どちらかというと建物をつくって完成でなく、
ハード面もソフト面も全部引っ括めた、お店づくりそのものに興味があった。


大学で夢中になった自転車屋台での小商いや、

なにかひとつのことをテーマを魅力的に発信していくこと。
食に関わる仕事、食に関わるものづくり。


あと、通信をかいているうちにフツフツを思うことがあった。
なにかを発信していきたいのだけど、
なにかを発信するには、当たり前だけど発信するための「なにか」が必要で、
その「なにか」がうすっぺらいために、ただのお遊びになってしまうのです。
ずっと、なにかしっかり腰を据えて取りかかるような
ただ見栄えするのではなく、奥行きのある

研究テーマのようなものをずっと探していました。


で、今こうして「薪窯パンの店」という大きな大きな
想像以上の理想的な舟がやってきて、
また薪窯のパンというのが、ものづくりと料理のちょうどまん中で、
ロマンに溢れていて、研究的で、
この奇跡のような会社で、
パン屋づくりのすべてを自分の目で見て、自分の頭を使って、自分の手を動かして、
お店をつくっていくなんて、
これに乗らなかったら、今まで何をしてきたんだいという話なのです。

年明けには、社長にパン屋をやらせてくださいといい、
パン屋への挑戦がはじまりました。
このときの私はパンを焼いたことがなかったのに。